連載小説「リハビリ」
- 4 日前
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はじまりは小さな指の震えだった。
だんだんと動かなくなっていった両手の指たちを私は他人事のように感じたものの
まるで家族を亡くしたばかりの友人の心労を見守るかのように心の片隅の安全そうな場所に指たちが動かないという不安を私は匿った。
コントロールが効かないその指先をじっと見つめて集中していると脈打つ毛細血管と張り巡らされた神経のありかまでを感じられるようになってやっと少しの動きを取り戻すのだ。
病院に行こうか一瞬迷った。
でも行かなかった。
今はそのことに後悔していない。その後の半年間のことを想えば。
人は老いていく。ちょっと前の時代にできたことができなくなっていることに気づいたとき、大抵の人は刺激を追い求めなくなっていくのかもしれない。私は違った。あらがった。毎日ピアノの教室に通うことで少しずつ私の指は器用さを取り戻していくだろうと願ったのだ。
音楽が好きだったのはとうの昔で、学生時代に音楽オタクの友人に連れられていったライブやレコードバーで知った程度で、自分で掘り下げたこともなかった。ただ覚えているのは優雅に流れる音楽をバックに魅力的な男女がダンスをしているアメリカ映画のワンシーンに憧れたことだった。
「憧れ」は残念なことに夢とは違うもので、自分の感性や文脈の外から突如現れた異質なものであって、魅了されているにすぎない。
教室の扉を開いたときピアノの音が聞こえた。私はそこに居座ってその調べに聞き入った。
ショパンの軽やかな音楽だった。ピアノの前に座っていたのは華奢でありながらどこかゴージャスな女性だった。














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