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初長編映画プロット「無題」

March 12, 2019

 

 

 

 

 美しい綾は自分を人と比べて生きてきた。そして常に勝気だった。

旦那の昭之は、家に帰れないでいた。会社をリストラされたのだ。社会的に負け犬になってしまった自分が恐ろしくかっこ悪く思えた。リストラされるまでの昭之は、職案にかよっている人だったり、ホームレスだったりする人たちは、無縁の存在だったし、悍ましい存在だとさえ思っていた。昭之と綾には10歳の娘がいた。15年前に新宿で開催されていた婚活パーティーで知り合った2人の関係は、冷め切っていた。出会った頃、婚活をしていた当時CAの綾にとって、ルックスは、いまいちだが大手の銀行に勤めていて、真面目そうな昭之は、ちょうど良い物件のように見えた。あまり恋愛経験の少なかった昭之にとって美しい綾は申し分のない相手だった。昭之は、ここぞとばかりに一生懸命誠実に綾を口説いた。綾がいつも時間通りにくる昭之に「あなたいつもぴったりに来るわね」というと「銀行員ですから」と嬉しそうにいう昭之だった。地味だが真面目な昭之をみてこいつは裏切らないだろうと思った。綾は、気が強かった。温和な昭之にとってその気の強さは、痛快だった。他人を批判しまくる綾の言動は、普段自分が我慢していた鬱憤を晴らしてくれるものでもあった。批判の矛先が自分に向けられる時を除いては。。。付き合って1年もしないうちに二人は、結婚した。世間の景気はそこそこよかった。2人は、順風満帆だと思っていた。美しい綾は、実は、いろんな男から

誘われることがあったが、全て断った。せっせこ働き、浮気の匂いが全くしない旦那がたまに連れて行ってくれる高級レストランに行ってプチセレブ気分を味わうのは、綾にとって至福のときだった。娘の佐知子が生まれ、彼女が小学校に入学した頃、綾に暇な時間ができるようになった。

綾には、趣味というものがなかった。生まれてからずっと忙しく生きてきた綾にとって無駄な何かに熱中したりするようなことは、一度もなかった。綾にとって、そして昭之にとっても世間一般の人がしない何かをしたりすることは全て無駄なことだった。それよりも綾は、佐知子の通う小学校のママ友との自慢争いに負けないようにすること、そしてリーダー格になることに必死だった。そんな中、昭之が大阪に出張に行ったきり帰ってこなくなった。

 

その半年前、昭之は、上司に呼び出された。あっさりと3ヶ月後のリストラを通達された。即座に総務部に移動が言い渡され、3ヶ月間総務部の職場で再就職先を探す毎日が続いた。新しい職は、まったく見つからなかった。綾には、リストラされたことは、言えないでいた。会社の最後の出勤日が過ぎても昭之は、毎日スーツを来て定刻に家をでた。3ヶ月して、大阪の大学時代の友人が会社を経営していて人手が足りないから来ないかという打診があった。最後のチャンスと思った昭之は出張のフリをして大阪へ深夜バスにのっていった。大阪につくと友人と連絡がとれなくなった。友人の会社の住所を訪ねても空っぽのオフィスがあるだけだった。昭之は、道頓堀のカプセルホテルに泊まろうとしていたが、貯金はもうわずかしかなかった。思い悩みながら道頓堀をひたすら歩いた昭之は、公園の一角に置かれたベンチに横になった。綾からのケータイの着信は、全てでなかった。留守番電話に残された佐知子の声を聞いて嗚咽した昭之は、思い余って綾へメッセージを送った「ご迷惑をお掛けして大変申し訳ありません」。15年間連れ添った家族へのメッセージは、それだけだった。1週間もすると昭之は、ゴミ箱を漁るようになった。道頓堀でパチンコ屋の看板を背負うサンドイッチマンをしたり、雑誌を拾って売りさばいたりする毎日が始まった。そんなある日、昭之が橋の下で寝ていると酔っ払った3人のヤカラからリンチされた。昭之の呼吸が止まったかと思った時、橋脚の下から水滴が昭之の顔に滴れた。昭之は、起きあがった。すると昭之の脇に手のひら大の色白な小人が立っていた。驚いて腰を抜かす昭之を見ながら色白な小人は、楽しそうに笑っていた。笑いやんだ小人は、昭之の全てを知っているかのような顔をして、ケータイを指差した。ケータイには、家族の写真が写っていた。小人が指を鳴らすと写真が消えて画面が真っ暗になり、「会いたいのか?」というメッセージが映し出された。昭之は凍りついた。しばらくして、小人の不思議な顔を凝視しながら恐る恐る頷いた。すると小人は、またケラケラ笑った。鳴り響く小人の笑声を聞いた昭之は、右手で蚊を殺すように小人を叩き潰そうとした。手をのけると今度は、ケータイの画面に小人が登場した。そして「お前を改造する』というメッセージが現れた。そのあと、ここにいけというメッセージが表示されてグーグルマップの位置表示が現れた。そこは、初めて野宿した公園だった。幻覚を見ていると思った昭之は、無視して寝た。日が昇り、橋脚の下の昭之の顔に強い日光が差し込んだ。沢山の生き物が生息している川の健やかな音と近くの公園で開かれている少年野球の試合の元気な歓声が聞こえてきた。昭之は、起きた。身体中の痣や擦り傷が疼いていたが、なぜか心地よい朝に思えた。ケータイの電池は、切れていた。昭之は、いつものように川の水で顔を洗い、ヒゲを剃った。昨日洗って干していたユニクロのワイシャツをきて、キャリーバックを転がしながらまた雑誌拾いの旅にでた。4月に大阪に来て3ヶ月が経っていた。昭之は、雑踏を歩きながら、昨日見た笑う小人の顔を思い出した。昭之は、その時、変わりたいと思った。それまでの3ヶ月間、昭之は、毎日やり直したいと思っていた。屈託なく笑う小人の顔を思い出すと、全身の緊張が抜けるようだった。不思議な夢を見たと思った昭之は、グーグルマップの指し示していた公園に行ってみようと思った。何かあるかもしれない。少し期待に胸を膨らませながら雑誌拾いのためだと言い聞かせながら、あの初めて野宿した公園を再び訪れた。

 

旦那がリストラにあったことを知ったのは、彼が大阪から帰ってこなくなって1週間後だった。昭之が勤めていた会社に電話してことの真相を知った綾の最初に取った行動は、昭之の通帳を探すことだった。毎月お金を昭之の口座から振り込まれていた。昭之の通帳を確認しても6ヶ月前から記入がなかった。銀行に行っても残高の確認は本人でないためできなかった。もうすぐそこをつくのではと悟った綾は、アパートを引き払い春休みの佐知子を引き連れて浦和の実家に戻った。美しい綾にとってこの出来事は、信じられないくらいおぞましかった。仲良しの同級生とお泊まり会をする約束があったので浦和には行きたくなかった佐知子だったが、強い口調でいう母のいうことを聞かざるおえなかった。ママ友には笑顔でちょっと実家が今いろいろあって急遽帰らなければいけなくなったと言い伝えた。誰にも本当のことを言えなかった綾であったが、実家に戻って自分の母には、事情を全て話した。何度も昭之に電話をかけたが、出る気配はなかった。留守番電話に佐知子と二人でメッセージを残した。綾は、40歳だったが、未曾有の不況に見舞われていた世間は厳しかった。希望するような仕事は、見つからなかった。やっとこさ見つけた仕事は、歯医者の受付だった。佐知子に学校をやめさせたくなかった綾は、受付を始めて2ヶ月たったころ、仲良くなった同僚のマナの紹介で銀座のキャバクラで働くことにした。お客さんと結婚することもあり得る。と28歳のまなちゃんから聞いた綾は、まだ自分もいけるかも密かに思った。最初は、緊張したが、ひと月もすると綾は、慣れた。『ご迷惑をおかけし大変申し訳ありません。』昭之からのメッセージを受け取ったのは、飲食店経営の客と同伴している時だった。男は、セックスにしか興味がないようだった。言いよる男をきつく断って以来、パタリとこなくなったが、ある日やってきてまた指名を受けた。「このクソババあ。つまんねえんだよ。」綾は、その男から言われた。ババアと言われたのは、生まれて初めてだったうえ、クソがつけられたことには、開いた口が塞がらなかった。客は、即座にボーイに連れていかれ出禁になったが、綾は、その晩娘の前で初めて泣いた。

 

佐知子は、お泊まり会に参加したかった。そこでタカヒロくんについて話し合うはずだった。タカヒロくんは、10歳にしてギターが弾けた。タカヒロくんは、運動もできるしハキハキ話すお利口さんでもあった。たかひろくんは、クラス中の女の子からモテていた。佐知子も同様にタカヒロくんがすきだった。ギターというものがどういうものか知らなかったし、そんなことができる子がいるなんて佐知子にとって想像を絶することだった。そもそも音楽というものに自分の家族は、触れたことがなかった。だからわからなかった。クラス内発表会でみんなの前でギターを演奏したたかひろくんは、佐知子にとって奇跡の人物だった。佐知子は、漫画をよく読んだ。そして、親に内緒で絵を描くのが好きだった。佐知子は、たかひろがギターを弾く姿を一生懸命描いていた。その絵は、大切に自分の机の引き出しにしまっていた。佐知子には、怜ちゃんという友達がいた。怜ちゃんもそのお泊まり会にくるはずだった。怜ちゃんとは、たかひろくんのことで喧嘩中だった。バレンタインデーに怜ちゃんは、なんとたかひろくんにチョコを渡すどころかたかひろくんと一緒に帰ったのだ。抜け駆け。言葉は、知らなかったがそういうことをされたと強く感じた。その日を境に怜ちゃんは、佐知子をいじめた。なぜならたかひろくんは、佐知子が描くお絵かきの話ばかり怜ちゃんにしたからだった。友達の怜ちゃんにいじめられるのは辛かったが、佐知子は、悪くなかった。父がいなくなり、学校では、いじめられ。母は、昼も夜も家にいなかった。全てが苦しい状況だった。佐知子は、その分、黙々と漫画を読んだ。それが佐知子の唯一の救いだった。そしてたかひろくんがギターを弾く姿を描いた大作は、毎日書き足され、たかひろくんのロックに負けず劣らず佐知子の描く絵もロックンロールの様相を呈してきたのだった。

 

10月になると、年に一回の学習発表会が催される。先生主導の元、生徒たちによる劇や演奏のプログラムが組まれて行く。たかひろくんは、多数決により一番目立つ役を演じることになった。佐知子の役は、なかなか決まらなかったが、これも多数決により一番セリフのないひまわりの役を演じることになった。たかひろくんは演奏会でギター演奏もまかされていた。そして、図画の小林先生から佐知子が呼び出しを受けたのもその頃だった。佐知子の描いた桜の絵は学習発表会の日に特別賞を受賞して廊下に張り出されることになった。

 

公園を再び訪れた昭之がいつものようにゴミ箱をあさっていると、「何か探し物ですか?」と女性の声がした。昭之は、人に見つかってしまったことの羞恥心からその場を逃げ出した。声の持ち主は、40代後半の女性だった。清掃員の服装をしているその女性は、ゴミ箱から雑誌を拾いあげ、昭之の後ろ姿を追っていった。女性が「すみません。これですよね?」と声をかけると。昭之は、しどろもどろで振り返った。「あぁ」と言って女性から雑誌を2冊受け取った。「ここは、いつも雑誌捨ててありますんで明日からとっておきましょうか?」女性は、何の気なしに言った。その日から、昭之は、その公園に同じ時刻に通った。その度にその女性から雑誌を受け取ることになった。受け取る雑誌は、いつも丁寧に布で拭かれていた。2週間して、二人は立ち話するようになった。女性は、樹子という40代後半だった。今、清掃員の人員に一人空きがあるから、面接に行ったらどうかという誘いを受けた。昭之は、面接を受けることにした。昭之は、採用された。その日から、昭之はあらゆる建物や場所の清掃をするようになった。樹子とはよく話したが、自分の身の上話は、避けた。それは樹子も同様だった。ある日、地面にへばりついたガムを樹子と一緒に剥がす仕事をしていると、街灯テレビで株価のニュースが取り上げられていた。休憩に入って二人で座ってお茶をしながら、昭之は、ぼうっとテレビを眺めていた。その姿を見て、樹子が言った「昭之さんやっぱりいい会社に勤めてたんでしょ?」「しっかりしてるものね。」「いや。まあそんなことないです」と言う昭之だったが、樹子は、その言葉に騙されないでじっと昭之を眺めた。「今度お茶しません?」「お茶?今してるじゃないですか?」「こんなペットボトルじゃなくて、ちゃんと喫茶店いきましょうよ!」

二人の最初のデートは、ルノアールだった。昭之の身の上話を樹子は、全てを包み込むようかの表情で時々、相槌を打ちながら聞き入れた。聴き終わると私は、そんな経験したことないからわからないけど。あなたもやっぱり苦労してるのね。つらいでしょうに。と言った。そう言われて昭之は、「いや。今はそうでもありません。家族のことは、もう忘れました。今は自分が生きるのに必死ですから。」さもなく答えた。その言葉を聞いて樹子は、少し怪訝な顔をした。

 

 

客は、色々いたが綾は、35歳のコピーライターの田中からたまに指名を受けた。田中は、いつも謙虚だった。綾は、才能ある田中が好きだったが、これといって趣味もなかった綾にとっては畏敬の存在だった。綾は田中にいった。「優しいのか冷たいのかわからないですよね田中さんて」「そうなんだ。いいじゃない。その方が。」と遠くを見ながらそっけなく言う田中の表情は嬉しそうだった。

ここでたくさんの客に接して行くうちに綾は気づいたことがあった。売れる子は、とても自分をもっているのだ。同僚のマナちゃんは、売れっ子だった。そして、マナちゃんは、どんなひどい男からの会話でも難なく切り抜けおもしろい返しができた。月日がたって、いよいよ綾も銀座のキャバ嬢らしくなってきた頃、田中から同伴の誘いを受けた。同伴は、渋谷のホテルの有名中華料理屋だった。そこで2人は、もっぱら仕事の話をした。田中は、コピーライターで人々に注目を浴びるフレーズを考えるプロで、綾は、キャバ嬢で人の気を惹く言葉を発する仕事をしているからなのか、少し気があった。その日から、よく田中の同伴を受けるようになった。田中と話していると自分の仕事もどんどん上手くできるようになっていった。そして、ある日、熱海観光の宣伝コピーを考えないといけないから熱海に行くんだけど一緒に来ないかと誘われた。迷うことなく綾は、行くと答えた。

 

佐知子の学習発表会の一月前、クラスは、海浜学校で白浜に行くことになった。白浜水族館に訪れた際、魚を写生することになった。佐知子は、全ての魚をじっくりと見て回った。一番目をひいたのは、タツノオトシゴだった。一生懸命写生していると、気づけば、隣にたかひろくんがいた。たかひろくんは、それなりに描いているのに対して、佐知子の描くタツノオトシゴは、暗闇の中でひっそりと精彩に光り輝くように描かれていた。「佐知子ちゃんのタツノオトシゴめちゃくちゃすごいね。」たかひろくんは、言った。「え。。」佐知子は、言葉につまった。「いつも思ってたんだよね。佐知子ちゃんは、すごい絵が上手だって。」できすぎ優等生のようにいうたかひろくんに佐知子は、ちょっと辟易した。でも気づいたら二人の足の膝は、当たっていた。佐知子は、たかひろくんの温もりを感じた。とてもドキドキしている佐知子に対し、たかひろくんは、なんとも感じていないようだった。「発表会、がんばろうね」とたかひろくんは、言った。顔を赤らめながら「うん」と佐知子は、頷いた。水族館からバスまでの道のりを二人は、一緒に歩いた。怜ちゃんからのいじめのことは、何も気にならなかった。

 

日が経ち、昭之と樹子の距離は、徐々に狭くなっていった。週に1回くらいは、派遣される現場が一緒だった。二人は、仕事の後一緒にご飯を食べにいくようになった。勤勉な昭之は、事務所からも他の清掃員に比べ気に入られていた。2人は、仕事を割り振ってくれる亀井という名の上司を笑いのタネに話したり、清掃の仕方のテクニックのあれこれについて話し合ったりした。でも二人の間には、過去のことを触れないという暗黙のルールがあった。樹子は、一切自分の話しをしたがらなかった。顔は笑っているし、優しいのだが、奥底に仄暗いものがあってそれを触れることは、昭之には、できなかった。ある日の食後に二人が家路を歩いていると、ほろ酔い加減の昭之の左手が樹子の右手にあたった。昭之は、そのまま手を忍ばせて樹子の右手を握った。樹子は、最初手を振り払ったが昭之は、しぶとく手を握った。彼がドキドキしているのに対し、樹子は、一瞬ため息をついて、その後は、無表情だった。駅まで無言で二人は歩いた。いつも駅で別れる二人がその日は、同じ電車に乗った。電車の中で昭之は、樹子の唇にキスをした。昭之の小さな部屋のベッドで二人は重なり合った。翌日の2人の勤務先は、別々だった。日が経ち、何度目かの逢瀬の時に樹子は、昭之のどこか寂しそうな背中をみながら聞いた。「家族は、どうしてるの?」昭之は、無言だった。樹子は、言った。「まだ離婚してないんだよね?」昭之は、タバコを吸い続けた。

 

綾と田中は、新幹線で熱海についた。二人は旅館までの道中、グルメの話、ファッションの話、生い立ちの話、いろんな話をした。田中は、どんな話ものってくるし、楽しくウィットに富んだ受け答えを綾にした。旅館にチェックインすると、そこには、部屋風呂があった。眺めは最高だった。夕刻になって田中は、風呂に入った。田中が風呂に入っている間、綾は、少し悩んだあげく、あとを追うようにして脱衣して田中のいる風呂に入っていった。一瞬驚いた田中だったが、その後の二人は、抑えられなかった。ただ、コトが終わったあと、田中は、少しいつもよりそっけなかった。不安に思った綾だったがその晩は何事もなく二人は、眠りについた。次の日、綾は、早く起きた。田中のケータイが鳴った。画面には、田中明子の名が表示されていた。田中が起きて電話にでた。部屋を出て行き、なにやら家族と話しているらしい田中。その様子をみて呆然とする綾。電話を終えて戻ってきた田中に、綾は聞いた。「家族?」「うん。そうだよ」平然という田中に呆れた。「どうしたの?。。あ。。言ってなかったっけ?」言葉を発せられない綾。帰りの新幹線で綾は静かだった。不満げな田中。品川駅での別れ際田中は、綾にいった「いい歳こいて、何考えてんだよ。わかるだろ?」冷たく言い放った田中だった。

 

佐知子が白浜海浜学校から帰宅すると綾が家にいたが、悲しい顔をしながら夕飯を作っている綾を素通りし自分の部屋にこもってひたすら漫画を読んだり、絵を描いたりした。綾が佐知子の部屋の扉をノックする。「ご飯よ」「まだいい。」「来なさいごはんよ」「だからまだいいって」と佐知子がいうと綾が扉を開けて入ってきた。佐知子は、絵を描いている最中だった。「佐知子なによそれ」「これは。。。」と言って隠す佐知子。佐知子に詰め寄って絵を見る綾。「どうしたのよこれ?」「たかひろくんと頑張るって佐知子は、決めたの」決意の固い顔をする綾。「ママみたいには、ならないわ。佐知子。」むっとする綾。食事は二人で静かに食べた。「パパは、どうしてるの?」「さあ。どこにいるのかしらね。」「探さないの?」と尋ねる佐知子。答えない綾。「私は、心配だわ。」と佐知子は言った。翌朝、旦那の行方不明届けを警察に出すことにした。いなくなってから10ヶ月経っていたが、昭之の居場所を警察は、すぐに突き止めた。綾は、警察署に呼び出され、昭之の勤務先と現在のアパートの住所を知らされた。綾は、手紙を書こうとした。。佐知子が紙の切れ端に描いた小人の落書きが机の上に置いてあることに気づいた綾は、それを拾い上げた。小人は、笑顔だった。「パパに会いたいの?」と漫画の吹き出しのようにセリフが描かれたその紙をゴミ箱にすてた。昭之がいなくなってからというもの、それまで追いかけてきたステータスとは、全く違った人生を歩んできた綾は、新しい生活に必死だった。新しいパートナーを探すという淡い希望とそれが打ち砕かれるという出来事から悔しい気持ちでいっぱいだった。ただ、少し冷静になって気を取り戻そうと思うと、仲良かった頃の昭之の顔が頭に浮かんだ。でもしだいに憎らしく思えてきた。綾は、しばらく思い悩んだ後、手紙を書くのをやめて立ち上がった。

 

早朝、新大阪にバスで到着した綾は、そこから真っ先に昭之ぼろアパートまで向かい、ドアをおそるおそるノックした。しばらくして、出勤する直前だった昭之が扉を開けた。扉が開いて目があった瞬間、昭之は、その場で硬直して俯いた。「なにがご迷惑をおかけしましたよ。ここでなにしてんの?」昭之は、黙ってその場を離れようとした。「ちょっとどこに行くのよ。」「いや仕事なんだ。」「待ちなさいよ。この書類にサインして送って」離婚届を渡す綾。黙って受け取る昭之。それから、これ佐知子からの手紙だから。といって佐知子の手紙も渡す綾。その場を去ろうとする綾だったが、一瞬立ち止まり振り返る。「なんであんたいっつも黙ってんのよ。あんたのせいでどんだけ苦労したと思ってるのよ。」「何言ってんだ。おれだって。」「あんたの苦労と比べないでよ。」「こっちは、路上生活までしたんだぞ」「。。。。。。でも2人だけのもんだいじゃないんだから。」「もう金ないんだよ」「それで?」「だから俺には価値がないんだよ」「そういう風に思ってるんだね」その場を去っていく綾

 

地下鉄に乗る綾。

佐知子の手紙を部屋で読む昭之。

その後出勤する昭之

学校で劇の練習をする佐知子

昭之が仕事を終え、樹子を食事に誘う。

「どうしたの」と上機嫌に昭之に聞く樹子

「俺、東京に行くわ」神妙な顔をしていう昭之

「そうだよね。頑張ってね。」

 

数日後、いよいよ。佐知子の学習発表会の日がやってきた。

綾は、ひまわりを演じる佐知子を見守った。劇が終わって、今度は、たかひろくんの演奏が始まった。たかひろくんはロックだけでなくクラシックも演奏できる天才児だった。パガニーニ作曲の24の奇想曲の第24番をギターで完璧に演奏したたかひろ。演奏が終わったあと。今度は、佐知子の描いた絵の展示を綾は見にいった。佐知子の絵もたかひろに負けず劣らずだった。佐知子とたかひろは、手を繋いで一緒に絵を見た。綾は、その光景を近くで見守っていた。綾が佐知子の展示を見ていると遠くから昭之が歩いてやってきた。昭之は、久しぶりに会う綾と佐知子に戸惑ったが、たかひろと硬く手をつないでいる佐知子の成長に心からおどろいた。佐知子に綾は、「じゃあまたあとでね」と言って綾と昭之が公園にいった。「相変わらずぴったりにくるのね」目を綾に合わせる昭之無言で頷く。「会社クビになったって言わなかったのは俺が悪かった」「で。。どうすんの?」「この紙はいらない。。。。一緒にやっていきたい」

 

3人は、新宿の駅ビルの洋食屋で夕食をした。娘の前でお互いの近況を話しあう綾と昭之。なぜか楽しい雰囲気になる3人。「パパ明日も大阪で仕事があるんだ。もうすぐ東京に帰るからね」と泣きそうな顔で昭之は佐知子に言った。昭之は、2人と新宿バスタで別れた。新宿からの家路、「ママもパパもこれから少しづつ変わっていくわ。佐知子は、たかひろくんとうまくいくといいわね。佐知子の事を大切に想ってくれる人がいたとしたらそれは、あなたにとって財産よ」的なことを佐知子にいう綾。

 

 

作 青木優太

 

 

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